最近、「そもそもガバナンスとは何?」という質問をいただくことがあります。ガバナンスに関心を持っていただくことはありがたいのですが、簡潔に説明しようとすると難しい言葉です。Wikipediaによると、冒頭に「統治のあらゆるプロセスをいう」と書かれていて、文脈によって多様な意味をもつ概念であることが示されています。また、語源は古代ギリシャ語の「導く、案内する」やラテン語の「舟を操舵する」だとされていまして、「目的地に到着するように舵を取る」というニュアンスが含まれていると考えられます。
企業におけるガバナンスはコーポレート・ガバナンスのことを指す場合が多いと思います。しかし、コーポレート・ガバナンスの仕組みだけで現場までガバナンスを効かすことは難しく、あらゆる階層や役割の組織が相互に作用して組織全体が望ましい方向へ向かうように仕組みを設計し運用することが必要です。具体的には、戦略部門や管理部門のスタッフが次のような業務を行っていると思います。
①組織の方針や戦略を策定して周知する・・・目的地の決定と伝達
②良い意味で官僚的に組織の責任分担を決めルールを作り守らせる・・・目的地への正しいルート
③人材を育成したりプロジェクトやコミュニティの活動を推進する・・・目的地へ到達する能力向上
④リスクを分析し①~③をより望ましい内容に見直す・・・ルート変更や目的地変更
企業を取り巻く環境が安定していて波が穏やかであれば、①~③のやり方を標準化し目的地に向かって堅実にコントロールすることでガバナンスを効かすことができます。しかし、変化が激しい荒波の中では狙い通りの方向に舵を取ることが困難です。もしかしたら目的地にあるはずの財宝は奪い取られていて、別の目的地にある財宝を探すことが必要かもしれません。そうなると、④の重要性が高まります。このような見方は、AIのような新しい分野のガバナンスにおいてリスクベースの考え方が採用されていることにもつながります。
冒頭の「そもそもガバナンスとは何?」という質問の背景には、安定した環境を作りルールを守らせることがガバナンスだという性悪説の考え方があるようです。そのため、環境が変化しルールが定まっていない中でのガバナンスのあり方に戸惑いがあるのだと思います。今一度ガバナンスの本質に目を向け、新しい財宝の在り処を求めて挑戦する人のために、性善説のガバナンスのあり方を考えることが大切ではないでしょうか?